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差別と闘う日本人仏教指導者

日付:2018年2月10日

編集人 峯島

 高野山大学(和歌山県・高野町)の敷地には、アンベードカル博士(1891-1956)の銅像が置かれている。相互経済関係促進の覚書を締結している和歌山県とインド・マハーラーシュトラ州の友好の証として高野山に設置されるに至り、2015年9月には同州首相、和歌山県知事臨席のもと、記念式典が開催された。

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アンベードカル博士銅像
 ご存知の方も多いと思うが、アンベードカル博士はインド憲法の父とされる。不可触民として生まれたが、アメリカ、イギリスに留学し、経済学の博士号ならびに弁護士資格をえて帰国。インド独立後には法務大臣に就任し、憲法起草委員会の委員長に任命された。インド憲法では不可触民制の廃止、宗教・人種、カースト、性別または出生地を理由とする差別の禁止などが定められた。独立以前から不可触民の解放運動を指導してきた同博士は、カースト制度を基盤に持つヒンドゥー教の枠内にいたのでは差別から解放されないとして1956年、仏教への改宗を宣言。三十万人以上の不可触民とともに改宗式に臨んだ。

 独立後、約70年たった現在、インドでは少数民族や被差別民に対する就業・就学に対する優先枠を保証する留保制度など差別の解消を図るための制度があるものの、現実的には社会の中で差別は根強く残っている。

 不可触民に対する差別の生々しい現実を取り上げたマラーティー語(注)映画「ファンドリー(豚)」を監督したマンジュレ氏は昨年、身分違いの恋が悲劇を生む「サイラト(無謀)、邦題・・君と一緒にいたくて」を発し、大ヒットとなった。

 昨年1月にはハイデラバード大学の大学院生ロヒト・ヴェムラ氏が自殺するという痛ましい事件も起こっている。

 同氏は、ダリット(不可触民カースト)をまとめる学生組織・アンベードカル学生協会(ASA)のリーダーであった。大学側が、彼への奨学金を取り消し、同協会のメンバーを寄宿舎から追放することに抗議して自殺を図ったとのことだが、高等教育機関での差別の実態が社会問題となり、大学や政府への批判も高まった。

 現在、インドではヒンドゥー至上主義を掲げるBJP(インド人民党)政権下にあり、支持基盤の上位カーストの意向に反する政策は期待できない状況にある。

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佐々井秀嶺師近影
 このインドにおいて長年、不可触民のために尽力してきた日本人がいる。佐々井秀嶺師(82歳)である。現在、マハーラーシュトラ州ナグプール市のインドラ寺を拠点に不可触民の権利獲得のために闘い、仏教復興運動を推進して、インド政府の少数派委員会の仏教徒代表委員もつとめたこともある。

 同師は1935年岡山県に生まれ、25歳の時に高尾山薬王院にて得度。本当の出家者になりたいと願い、タイ留学後は日本に帰国せず、67年にはインドへ渡る。ラージギルの日本山妙法寺を経て、ナグプールに。佐々井師によれば、龍樹の「南天竜宮城へ行け」とのお告げによるとのことだが、同市での仏教儀礼の普及や不可触民の改宗、仏教寺院の建立など進めていくなかで、次第に仏教徒からの信頼を得、彼らのリーダーとしての地位を確立していく。アンベードカル博士の死後、仏教徒の政治指導者が分裂を繰り返していたが、仏教徒の組織化を進めていった。

 その一方でブッダガヤにある大菩提寺の管理権を仏教徒に移すための奪還運動を九十年代より始め、このほか龍樹ゆかりとされるマンセル遺跡の発掘活動も進めている。

 1988年にはインド国籍を取得。長らく日本に帰国することがなかったが、2009年に44年ぶりに帰国。ここ数年は一時的に来日し、講演会も行われている。今年は6月に来日し、私が行った会場ではTV取材が入っていた。

 佐々井師は、約半世紀近く不可触民解放や仏教復興運動と関わってきた経験を聞き手の問いに答えるように話された。

 「同体大悲」を旨とし、インドの不可触民のために闘うことを菩薩道と心得つつも、「インドでは騙されどおし」と綺麗ごとでは済まない現実を語る。信徒のためにペットボトルの水をお題目で加持するなど、自身とインド仏教徒との関わりの話では清濁併せ飲む姿勢、教義にこだわらない自由さを感じた。弁舌流暢ではないが、自らの信念に従う力強い言葉は聞く者を圧倒する。

 「宗派意識が強く、民衆に密着していない」と日本仏教界を冷ややかに見つつ、しらけきっている日本の若者にも喝を入れるように「生きがいを見つけ、まっしぐらに進んでほしい」と語る佐々井師。

 彼の力強さに感動すると同時に、インドの社会問題と向き合う事の大変さを感じざるを得なかった。
 
(注)主にマハーラーシュトラ州で使用される、州の公用語

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