仏教童話

仏教童話『減らない酒』

日付:2018年6月10日

191-18.jpg むかし、ヴァーラーナシーのみやこで、ならずものたちが酒代さかだい工面くめんするためにわる相談そうだんをしていました。

兄弟きょうだいよ、どうだい。このごろは景気けいきわるくていいさけめねえや。なんかいいはなしはねえかぁ」
「いいさけどころかわるさけだってめねえぜ。貧乏人びんぼうにんつらさよぉ」
「そこへいくと、あのおしろ財務官ざいむかん旦那だんなたいした景気けいきだな」
おれがこのあいだみちですれちがったときにちらっとたけど、すっげえ上着うわぎてたぞ」
上着うわぎ立派りっぱだけどよう、あの右手みぎてゆびにはまった指輪ゆびわたか。うずらのたまごくらいのルビーだぜ。あれひとつでお屋敷やしきひとつ売買ばいばいできるらしいぜ」
「なんだかゆめみたいなはなしだけど、おれたちには関係かんけいねえなぁ」
「そうでもないぜ」

 そのときいままでだまっていていた、一番いちばんたちのわるそうなおとこいました。
「いいか。よくくんだ」
おとこ六人ろくにんのならずものたちになにか耳打みみうちをしました。かれらはうんうんうなずき、
「さすが兄貴あにき知恵者ちえものだなぁ」
って、そそくさとっていきました。
 
「いったいどういうかぜまわしかな」
財務官ざいむかん手入ていれのとどいたひげをなでながらいました。
なぜなら、いつもはかおただけでこそこそとかくれてしまうふだきのならずもの一人ひとりが、
「いつもあなたさまうやまっておりまっせ。一度いちどでいいからあなたさまのようなえらいおかたとおさけんでみたいとおもいまして」
いながら近寄ちかよって、おもいがけずいいさけはいったから、まちすみちいさな自分じぶんたちの酒場さかばに、一度いちどさけみにてくださいと、とさそってきたのでした。
「おかしいな。殊勝しゅしょうえば殊勝しゅしょうだが、そんなあま連中れんちゅうだともおもえないし。どういう思惑おもわくだ」

 それでも財務官ざいむかんは、その酒場さかば悠々ゆうゆうとした足取あしどりでやってきました。
「おお、これはこれは。ご来店らいてんくださるとはなんとも有難ありがたいことで」

 使つかいにおとこをしながらそわそわしながら仲間なかま合図あいずおくりました。
どうぞどうぞとになってすわったかれらは財務官ざいむかん一瓶ひとびんさけすすめました。
「さあさあ、おみください。このさけはうまいですよ」

 だまってじっとみな様子ようすていた財務官ざいむかんが、そのとき、さっとして酒瓶さかびんり、
「そんなにいいさけなら、わたし一人ひとりむのはもったいない。さあさあ、わたしのおごりだ。遠慮えんりょせずにぐっとけておくれ」
い、もじもじしているならずものたちのさかずきにそのさけをつぎました。

 さあ、一緒いっしょにといかけたとき一人ひとりのならずもの4がブルブルふるえながらがり、
きゅうようおもしまして」
いだすと、となりおとこがって
「あっしも...」
うやいなやならずものたちは次々つぎつぎがり、最後さいごさおかおをした首謀者しゅぼうしゃ一人ひとりのこりました。
旦那だんな堪忍かんにんしておくんなせい。ほんの出来心できごころなんすよ」

 いえかえって財務官ざいむかん酒場さかば一部始終いちぶしじゅうつまはなしました。
「まあ、それはあぶないことをなさいました。どうしてそんなところへ、っていながらおかけになったのですか」
やつらがどんなふうにわるいことをするかようとおもってな」
「でも、そのさけにしびれぐすりられているなんてどうしておかりになったのですか」
簡単かんたんさ。わしがじっとていたら、そのさけだけはだれけないのさ。そのくせやつらはそればかりをつづけるんだ。あのばかものめらが」

 財務官ざいむかんは、つまからけがれのないおちゃ一杯いっぱい、おいしそうにんだのでした。 

(ジャータカ五三より)

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