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修了レポート 真言宗 「弘法大師の生涯について」

日付:2018年8月10日

第30期 森山 玲

 弘法大師は、宝亀五年六月十五日に讃岐国善通寺にて、佐伯善通と玉依姫の間にお生まれになられたと言われる。伯父に阿刀大足がおり、儒教を中心とした学問を身に着ける機会に恵まれていたことは、若き日の著作と言われる三教指帰を読めば明らかである。

 奈良時代の日本仏教では、教理的にはすでに法華経や華厳経を受け入れ、法相などの研究もなされている。密教も雑密と呼ばれる個々の技法が伝わり、道鏡などは雑密を学んでいたらしい。社会的階層としては、東大寺を筆頭とする国分寺や国分尼寺で官僧となり国家を鎮護する流れと、行基のように民衆に布教し、社会奉仕活動を行う私度僧の流れとに分かれていた。官界での栄達を望まなかった弘法大師は、三教指帰を記して世俗を捨てて、私度僧として空白の七年間を過ごす。山野で虚空蔵求聞持法等の修行に励みながら、久米寺で大日経に出会ったと言われるが、「性薫我を勧めて還源を思いとす。経路未だ知らず。岐に臨んで幾たびか泣く。」とあり、苦しい求法の日々であったことが伺われる。なお、入唐帰国後の請来目録をみるに、私度僧でありながらも、当時の学問的状況を十分に知悉していたことは疑いなく、官僧たちとも十分に交流していたのだろう。

 三十一歳になった弘法大師は、東大寺の戒壇院で正式に得度し、官僧の地位を得て、私費で遣唐使船に便乗する。日本で一派を開いた多くの留学僧、例えば、最澄、道元、栄西が、長江流域の中国南部で修行し、教えを持ち帰った一方、一人弘法大師は、長安まで旅をして、青龍寺にて恵果阿闍梨に師事をする。恵果阿闍梨は、三人の皇帝の師であり、一介の留学僧にすぎない弘法大師が、なぜ恵果阿闍梨に師事できたのか、不明な点も多すぎるが、恵果阿闍梨は弘法大師を高く評価し、弟子入り後にすぐに金剛、胎蔵の両部を伝授した。灌頂名は「遍照金剛」であり、弘法大師は密教の第八番目の祖師となった。恵果阿闍梨は伝法後すぐに入滅され、弘法大師は、二十年の入唐期間を僅か二年で切り上げて日本に帰る。「虚往実帰」、のちに弘法大師は、荘子を引用しつつ、そのときの気持ちを表現している。

 帰国後の弘法大師は、闕期の罪により大宰府にしばらくとどまりつつ、当時気鋭の官僚和気清麻呂の知遇を得て、平安京の北西、神護寺に入る。そして、薬子の変を通じて嵯峨天皇と関わるようになった弘法大師は、朝廷の信任を得て、神護寺にて結縁灌頂を実施するなど、本格的に密教を布教していく。密教の普及にあたり、中国の文化に深い関心を持つ嵯峨天皇の影響は、無視できないものがある。

 弘仁七年には、修禅道場として嵯峨天皇に高野の地を下賜願い、弘仁十年には伽藍の建設に着手した。また、弘仁十三年には、平安京に東寺を賜り、官立寺院としての密教の根本道場とした。顕教に対する密教の優位を説く『弁顕密二教論』を記しながらも、東大寺に真言院を設立したとの記録もあり、既存の南都仏教界とは、時として法論を交わしつつ、円滑な関係を維持したようである。教理的には、この頃『即身成仏義』『声字実相義』『吽字義』を記し、密教の理論体系を整えているが、後に記される『秘密曼荼羅十住心論』にあるように、密教の優位を示しつつも、既存の宗論道徳を否定しないところに、弘法大師の独創性がある。一方、最澄との関係でみられるように、文献学に依存する姿勢を戒め、唯心を以って心に伝える実践のあり方を重視していることも忘れてはならない。

 また、行基の系譜につながる社会事業についても着手しており、満濃池の土木工事や綜芸種智院がよく知られている。特に綜芸種智院は、仏教に限らず儒教道教まで学ぶ場として、また教師学生区別せず給食を支えることを明言し、日本史上類例のない総合的な私学の教育機関と言える。

 晩年の弘法大師は、高野山において万燈会を行なう。「虚空尽き、衆生尽き、涅槃尽きなば、わが願いも尽きむ」という有名な言葉は、ここでうまれた。そして、宮中真言院にて御七日御修法を修し、鎮護国家を祈念することになる。

 承和二年に弘法大師は高野山にて入定され、約九十年後の延喜二十一年には、時の醍醐天皇から弘法大師の大師号を贈られる。日本には多くの大師がいるが、一般に大師といえば空海を示すほど人口に膾炙している。その事績はいつしか数多くの伝説とともに彩られ、全国各地に大師伝説が伝わっている。中世の多くの高野聖の影響を伺うこともできるが、弘法大師は、「虚空尽き、衆生尽き、涅槃尽き」ねば、願いは尽きないと誓願を立てられている。その誓願に基づき、弘法大師は、今も、衆生に仏道を説き続けている。 

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