人類の誕生と進化(第28期スクーリング特別講義)

宇宙の最初は無です。何もない。何もないところから、137億年前に、ビッグバンが起こります。「無が揺らいでビッグバンになった」、これはスティーブン・ホーキングという物理学者が述べたことです。
私は、これは無ではないと思っています。仏教的に言えば、これは空(くう)です。空は、無でもない、有でもないことです。ですから、むしろ空が揺らいでビッグバンが起こったのだと説明した方が分かりやすいのではないかと思います。
そして太陽系が46億年前に出現し、地球が誕生したのが38億年前です。19億年前には、地球上に最初の超大陸ができました。そして5億4千万年前、カンブリア紀に生命の大爆発が起こります。ところが6500万年前には、巨大な隕石がおそらくメキシコ湾辺りに落下し恐竜が絶滅してしまいます。その後、地球は非常に寒い時期に入り、その中で生き残ったものが、現在の私たちにつながる生命になってくるのです。
ヤスパースという、1883年から1969年まで活躍したドイツの精神科医であり実存主義の哲学者であった人が、歴史を大きく四つに分類し、枢軸転換期という思想・哲学・宗教観が大きく変化する時期に注目しました。
ひとつ目は先史時代。このとき初めて自覚的人間というものが生じます。道具・火・言葉・社会の誕生です。
ふたつ目が古代文明時代。大帝国が誕生し、国家統治のため文字が生まれます。このときの人間は大規模な組織の中で個人の自覚が希薄です。
3つ目が紀元前千年ぐらいから始まる第一の枢軸転換期です。古代文明を支える大帝国が崩壊し、人間は世界の恐ろしさ、自己の無力さを経験します。そこで解脱と救済を求めるようになるのです。世界中で同時期に起った大きな宗教的発展です。
最後は科学の時代。十八世紀以降です。ここに第二の枢軸転換期が始まります。科学が生まれたことにより、世界は統一体となり、新たな枢軸時代を、今われわれは経験しているというのです。従来の宗教という概念がここで見直され、科学的な真理にも法則にも、何ら影響されない、新しい宗教というものは、ここから始まるのだということになります。
民族によって、支配構造や人間精神の発達が一様でないので、一概にヤスパースの説のように第一の枢軸時代を前千年ごろ、第二の枢軸時代を十八世紀ごろとするには疑問がありますが、科学と矛盾しない思想・哲学・宗教というものは、精神的機軸を重点に考えるならば、キリスト教ではルターの宗教改革以降に芽生え、日本では鎌倉仏教による禅の悟りと浄土教の信心というものが科学(化学・物理学・宇宙物理学)に耐えうる宗教であり、人間の精神的枢軸を形成していくことになるものと思います。

※上記は第28期のスクーリングの講義内容を要約したものです。
※詳しい内容を知りたい方は、冊子「佛教文化」179号をご覧ください。