「安」 の一字こそが重要
1998(平成10)年、東京国際仏教塾の開講式で行われた鎌田茂雄先生の記念講演を18回に分け、ご紹介しております。本日は第16回です。
それでは老人で一番必要なのは何か、 といいますと、
【老を養うは一の安あんの字を占たもつを要す。 心安こころやすく、 身安みやすく、 事安ことやし。 何の養か之これに如しかん。 】
(老人の養生には安の一字を保つ事が肝要である。 即ち心が安らかで、 身も安らかで、 事をなすにも安らかであること、 これに過ぎた養生はないのである。)
簡単だというのです。 老人の養生は一つの安の字。 安心の安。 安心の安は心を安らかにすること。
それから、 心安く、 身安く、 事安しと、 こう言っているのです。 良い言葉ですね。 心を安らかにしなければならないから、 心安しです。 そして、 見安くです。 体も安らかにしなければいけない。 最後は事安しです。
気持ちを安らかにするためには、 信仰も大切です。 信仰の結果、 気持ちが安らかになっていくのです。 身が軽やかで、 安定していなければならないのです。 体を安定させるためには、 規則正しい生活が必要なのです。
事安しは、 何か起こるとします。 皆さんの家庭でも、 しょっちゅう何か起こるでしょう。 子供が独立してしまって、 夫婦だけでも色々な事が起こるのです。 どちらかが病気になると、 一緒に病院へ行かなければならない。 まして入院となると、 何か届けに行かなければならないし、 見舞いにも行く。 奥さんを介抱している間に、 今度は自分が具合が悪くなり、 夫婦共稼ぎでなく、 夫婦共介抱という事になってしまうのです。
80歳代の夫婦が、 互いに看病していかなければならない。 相手の身を何とかしていかなければならない。 ですから、 事安しというのは大切な事なのです。
事件が起こるといけないのです。 家族の中でも、 親戚の中でも、 仕事の上でもです。
心安く、 身安く、 事安しのこの安の一字こそが、 老年期を送るのに一番重要である、 と言っておられます。 -つづく-