沖縄の「エイサーと仏教」⑩

東京国際仏教塾卒塾生の並木浩一さんによる書き下ろしエッセイを連載でお届けします。第2部の3回目です。

袋中という坊さまの功績

いわき市の「じゃんがら念仏踊り」は現在も行われる夏の風物詩であり、市の無形民俗文化財にも指定されています。その起源に袋中上人が関わったという説に定かな確証があるわけではないのですが、袋中がエイサーの祖であるというのは、ほぼ定説です。当時は別の国であった日本と琉球の交流に貢献した袋中の役割は今日でも評価され、平成23年には九州国立博物館・沖縄県立博物館を巡回した展覧会「琉球と袋中上人展 −エイサーの起源をたどる−」で広く知られることにもなりました。いわき市のじゃんがら念仏踊りが那覇でのイベントに招かれたりする事例もあり、福島と沖縄をつなぐ「念仏の踊り」の交流の歴史はまだ進行中なのです。
じゃんがら念仏踊りが途絶えることなく伝承されてきた決め手のひとつは、これが新盆の行事に強固に組み込まれていることです。新盆を迎えた家は、列となって鉦や太鼓を打ち鳴らしながらやってくるじゃんがらの一行を庭に受け入れます。その場で、念仏の所作を組み込んだ唄と踊りが行われる。それは沖縄におけるエイサーと同じく、民衆の中に組み入れられた念仏の文化にほかならないものです。
明への留学を念願した袋中は、その思いは果たせずに日本に戻りました。その後、いくつもの寺院を創建することで知られているわけです。そしてそうした目に見えるかたちだけでなく、沖縄のひとびとが唄い踊る行為のなかに残る仏教の痕跡は、まさに袋中の功績といえます。  -つづく-

Profile:並木浩一(なみきこういち)
1961年横浜生まれ。桐蔭横浜大学教授。時計ジャーナリスト。ダイヤモンド社「ダイヤモンド・エグゼクティブ」「TVステーション」両誌編集長、編集委員を経て大同大学教授(メディア論・芸術論)、2012年より現職。編集者時代に東京国際仏教塾9期入塾、「仏教を学ぶと、生きるのが怖くなくなる」と実感し、専門課程を経て浄土真宗で得度。「沖縄のエイサーと念仏」についても研究中。

#東京国際仏教塾 #仏教を学ぶ #仏教を知る #並木浩一 #沖縄