一番愛おしいもの
仏典の中に、コーサラ国の王と王妃の話が出てきます。
ある時、王は、「王妃よ、そなたにとって一番愛おしいものはなにか?」と尋ねました。王は「王様です」と答えることを期待していたのですが、王妃は「自分が一番愛おしい」と答えました。そして、王妃が王様に同じように尋ねると、しばらく考えて王様も「自分が一番愛おしい」と答えました。
日ごろからお釈迦様の説法を聞き、自分への執着が苦しみにつながるということを聞いていた二人は、この答が正しいのか、お釈迦さまに尋ねにいきました。
お釈迦様は「どのような思いを持とうとも、命あるものは、自分よりも愛おしいものを見出すことはできない。だからこそ、他の人々もまた自分のことを一番愛おしいと思っていることに気づかなくてはいけない。そして、それに気づいたものは、他のものを害してはならない。」とおっしゃられました。
お釈迦様は、すべてのものは他のものと関わり合い、依存し合っており、一つとして単独で存在しているものはないという「縁起」の道理を説かれました。この「縁起」の道理で世界を見ていくと、周りがあってはじめて自分があるのだから、すべてのものが自分だけを大切にして、自分に都合の良いことばかりをなしていくことは不可能です。そのようなことをすれば、お互いに奪い合い、憎しみ合い、敵対しあうことしかできなくなります。
お釈迦様は、他の人も自分と同じように自らを愛おしいと思っていることに気づくことで、人々の痛みに共感し、お互いに譲り合い、人々の幸せを願う生活を送ることができるということを教えたのです。
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