日本仏教の展開-顕教と密教の視点から-

小峰彌彦先生の講義風景

第36期のスクーリングで行われた小峰彌彦先生の講義内容の一部を掲載いたします。

一、はじめに

日本の仏教の特徴を知る方法は種々あるが、奈良時代から平安時代の状況に目を向けることもその一つである。仏教の流れは、釈迦仏教→入滅後のアビダルマ仏教→大乗仏教→密教という歴史な経緯で認識されている。しかし日本に渡った仏教は成立順ではなく、ほぼ同時期に来入している。たとえば南都六宗すなわち三論・成実・法相・倶舎・華厳・律を見れば、この名称を見ただけでアビダルマ仏教と大乗仏教が同時期に伝わったことが明白に分かる。加えて南都六宗にとどまらず雑部密教も日本に流入しているのである。さらに平安時代初期になると、最澄と空海が入唐し天台と密教を伝え、新たな仏教が加わったのである。仏教以外では既に定着していた儒教や道教が存在しており、ここに日本古来の神信仰を加えると、この時代には様々な教えが混在していた情況であった。それ故これらの宗教の関係性が求められたのである。

淳和天皇は天長7年(830年)に、三論・法相・華厳・律・天台・真言の六宗に対し各宗の教義解説書を提出させた。これを天長勅撰六本宗書という。具体的には次の通りである。

 三論宗・玄叡『大乗三論大義抄』

 法相宗・護命『大乗法相研神章』

 華厳宗・普機『華厳宗一乗開心論』

 律宗・豊安『戒律伝来宗旨問答』

 天台宗・義真『天台法華宗義集』

 真言宗・空海『秘密曼荼羅十住心論』

これらはそれぞれの宗が依って立つ個別的な教義を示したのであるが、空海のみ総合的な視点を持った『十住心論』を著し、当時の諸教と密教の相関性を総合的に明らかにしたのである。このような総合の視点を全面に提示するのが密教であるが、私はこれを曼荼羅的思考と呼んでいる。空海は諸教を顕教と密教と区分けすることで、仏教のみならず神信仰などの諸教全体を包含した相関を明示した。日本仏教の独自性は、このような諸教の関係の情況を踏まえて作りだされてきた一面を持っている。この総合的な考えに大きく影響を与えたのが曼荼羅思想であり、本地垂迹説の基盤となっている。この曼荼羅の視点は、前回テーマとした『般若心経秘鍵』における『般若心経』解釈に対しても明確に表されている。

※全文(ダイジェスト版)は『佛教文化』第215号で紹介しています。
興味のある方は、MAIL:jimukyoku@tibs.jpまで、お申し込みください。

講義中に紹介された『胎蔵曼荼羅』と『中台八葉院』

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