禅和尚のぶつぶつ① 無事是貴人(ぶじこれきにん)

第二の人生で臨済宗の僧侶の道を歩み始めた太田宗誠と申します。
思いがけないご縁から、東京国際仏教塾のインタビューをHPでご紹介いただきました。
さらにご縁が続き、これまでの人生で学んできたことを通した禅の世界について、お話させていただくことになりました。

お釈迦様は、すべての事は自分の思いではなく縁で動いているといわれますが、今回の出会いで本当に縁というものは大事だと再確認しました。
このご縁を生かすためにも、自分が働いた航空会社やホテルの現場での経験が仏教とどう関わってくるのかを再確認しながら書いていきたいと思います。

私が航空会社に就職したのは1970年の大阪万博が開催された時。万博は、それまでは富裕層の乗り物だった飛行機が、大衆の足となるきっかけとなりました。その後、‘86から’91年のバブル景気によって海外旅行も大衆化し、人々の移動は世界規模へ。今では、飛行機は移動手段として車や新幹線と並び、当たり前の乗り物になっています。

ここで問題になるのが、禅語でいう無事是貴人(ぶじこれきにん)、「当たり前」という言葉です。
当たり前とは、快適なサービスが生活の中に溶け込んでいく状態といっていいでしょう。「当たり前」になると、たとえば飛行機が遅れたり欠航したりと自分の予定に狂いが生じ、途端に不便を感じ、不安になり、やがて不満につながります。飛行機を利用するときには遅延・欠航以外にも、預けた手荷物の紛失や破損、お客様の航空券紛失等々、様々な障害と隣り合わせです。
そのトラブルは、仏教でいう避けることのできない「生老病死」の四つの苦のように、ある意味、避けることのできないこと。それでも、そのトラブルを取り除いて、少しでも予定を取り戻し旅行の目的を達成できれば、不安や不満も解消することになります。

ある時、国際線でパスポートを忘れたお客様がいらっしゃいました。
当然、出国もできないので旅行はキャンセルです。しかし、家の方にパスポートを届けてもらい、出発できる便へ変更。必要に応じて、乗り継ぎも再手配することで、その方は遅れても、その日の内に出発することができました。

サービスの現場においては、マニュアルや機器が“NO”と言っても、そこからスタッフの仕事が始まることになります。
これは、様々に起こるトラブルに冷静に挑戦し続け、お客様の「当たり前」を取り戻す、そんな日々をご紹介していきたいと思います。

太田宗誠
合掌

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