禅和尚のぶつぶつ③ 応病与薬(おうびょうよやく)
草創期の航空会社は職人の集まりだと述べたように、本当に諸先輩は癖を持った方々が多くて、仕事の仕方もそれぞれの流儀がありました。個性が強いといえば良く聞こえますが、紹介するだけで一冊の愉快本になりそうな面々でした。
その中から、今回はもう一人の先輩を紹介します。その先輩は、プライベートでは遊び人というイメージで、福岡・中州の歓楽街でも有名な人でした。色々言うのも憚れるような噂もありました。しかし、仕事上で一端トラブルが発生すると、一人で矢面に立つタイプです。
ところで皆様は、飛行機の定刻出発は何のためとお考えでしょうか?
航空会社はお客様との約束として、新幹線に負けないように定刻にこだわります。しかしながら、もう一面があります。国内線では同じ飛行機が一日3回も4回も往復します。ですから朝一番に5分遅れると最終便の時には30分以上遅れることになります。
大阪空港は住宅地が近いこともあり、午前7時から午後9時までという運用時間の制限があります。悪天候の遅延は許可されるものの、機材繰りなど航空会社の遅延は認められません。
その日、福岡発大阪行の最終便が遅れを取り戻そうと機内掃除もそこそこに送り出しましたが、離陸直前になってやはり間に合わないということで駐機場に戻ってきました。当然、飛行機とともに、100人以上のお客様も戻ってくることになります。未だ新人だった私は、初めての大きなトラブル処理を手伝うことで、「今夜は徹夜になるな」と興奮していました。
ところが件の先輩は臆すことなく、ホテルや送迎のタクシーの手配、自宅へ帰る方の連絡先取得の準備などをスタッフ全員に指示。
そしてカウンターに戻られたお客様には、マイクを持って、今後の手順、宿泊の情報、明日の再出発時間、到着地への伝言の有無等の説明を行いました。それを聞いたお客様はたったの10分ほどで空港から消えていたのです。
中には、説明の間に大きな声を出す方もいらっしゃいましたが、その声に動揺することもなく、「後ほどお話を伺います」と言って説明を続けました。お客様が少なくなった時に、改めて個別に話を伺うという、それはそれは見事な対応でした。
迅速な事前の準備と、ブレない説明によって、お客様の不安を取り除く臨機応変な応用力。その夜の颯爽とした先輩の姿は私の憧れとなり、仕事だけに留まらず、人生の手本。仏教の用語でいうなら、応病与薬にあたるといっても過言ではありません。
太田宗誠
合掌

#東京国際仏教塾 #仏教を学ぶ #仏教を知る #臨済宗 #大人の学び直し