伊勢にみる神仏習合

太江寺住職 永田密山師

三重県伊勢市二見町の太江寺の住職をしております永田密山でございます。
東京国際仏教塾第29期卒業生の星野君が来て、お寺を手伝いながら、常行三昧や水行を修め、2年になります。私も宗派を問わず修行体験を通して学べる東京国際仏教塾はすばらしいと思っており、機関誌『佛教文化』も楽しく読ませていただいております。星野君は七夕祭の新行事も立ち上げてくれました。私の寺は神仏習合の寺なので、みなさんにもっと広く知ってもらうために、今回、お寺の歴史と共に「神仏習合」について投稿させていただきます。

先ずはお寺の歴史と伝承を紹介します。
今から1250年程前、聖武天皇は大仏建立を発願し僧行基に勧進を委ねました。このことはみなさまもよくご存じのことと思います。行基は全国を順錫し伊勢の國に入り、伊勢神宮を参拝し、現夫婦岩前で興玉神石に祈りを捧げました。このとき竜神と共に現、音無山に昇られた神仏を祀ったのが太江寺の始まりと伝えられております。祭られた神仏は興玉の神、天照大神、仏(千手観音)です。この興玉の神は猿田彦の神と同神とも言われ、伊勢神宮内宮にも自然石としてお祀りされております。

太江寺の景色

天照大神を祀る大和政権が伊勢の地に力を及ぼすまでは、興玉の神を祀っていた人達が伊勢を治めていたと考えられます。そして、新勢力に協力吸収された「旧勢力の神」は「新勢力の守り神」として東北の角に祀られています。現・夫婦岩の約600メートル先にある興玉神石は地震のたびに少しずつ沈み、それでも江戸期安政時代には頭のみは見えていましたが、安政の大地震ですっかり水中に沈んでしまいました。
この興玉神は、真珠信仰(古代インドでは人が亡くなるとその霊は月に昇り命が再生する、そのときには真珠の光が必要になると信じられていました。このためインドの権力者達はこぞって真珠を求めた)と言われ、猿田彦が比良夫貝に手を伸ばし挟まれ溺れ三霊が生まれたと言う話は真珠を取ろうとした伝承と思われ同神である事が窺われます。

夫婦岩では、岩の間の日の出以上に、月の信仰も深く関わっていました。
明治以前は太江寺、宇治会合所、江地下が、興玉神石を護持、管理しておりました。興玉神の本地仏は千手観音世菩薩で今の像は荒木田神主系の方が寄進したと伝えられる鎌倉時代初期の仏で、現在、国の重要文化財になっています。慈悲の相がしっかり受けとれるすぐれた檀像です。本堂左側には興玉社があり明治30年に太江寺興玉社より分霊をした現興玉神社と区別するため元興玉社と、今は表示されています。興玉社には御神鏡と山の神御神体が祀られており、古の信仰を今に伝えております。

二見浦の夫婦岩

また太江寺の前にある集落が伊勢湾に繋がる本来の二見浦であり、この二見浦は西行、鴨長明等多くの歌人が訪れ月の信仰に関わる風景も多く詠まれました。西行の「嘆けとて月やはものと思わする かこち顔なる我が涙かな」は百人一首にも詠まれ、ご存じの方も多いと思います。

また倭姫命が伊勢神宮鎮座の為に当地で御祓をし、伊勢神宮内宮の天照大神を祀ったと言われています。また当山は伊勢西国三十三ケ所一番霊場で三十三番の多度大社までの道程は倭姫命が内宮に天照大神を祀る迄の道程と合い、ここにも神仏習合の名残を感じる事ができます。
霊場と言う言葉は代々の神祀りの場に当時最新の文化と共に入ってきた仏教と言う名前の天竺の神(仏教が日本に入ってきた当時信仰対象は神として受け入れられた。日本人はインドの金ぴかの神を迎え後から神の名前が仏教と言う事を知ったから)を鎮座させた姿と私は捉えています。
倭姫命は天照大神の御杖代となり大和国笠縫邑を出発。伊賀に8年、近江国に6年、美濃国に4年、そこで国造・県主から船三艘を献上され、伊勢国桑名郡多度町の野志里神社の地、揖斐川の川口に船で上陸し各地の神々を事向け(従わせ)し、伊勢平野を南下。太江寺河口を遡り、伊勢神宮(内宮)を定め、祭りました。

大和政権を一層強固にしていった倭姫命の行程は伊勢西国では逆打ちの行程(伊勢西国三十三ケ所を逆にまわる行程、倭姫命は三十三番の多度から一番伊勢に向かったので)となり、各霊場は神仏習合の痕跡も多く伝えております。平安時代から鎌倉時代にかけて天台、真言を中心に神仏習合はさらに広がり、考えの異なる人々も上手く共存できるようになりました。
私は、このことは世界宗教の見本とも言えると思います。ヨーロッパでは一神教のもと、古の神々は絵本の中の妖精や小人として見つけられるくらいですが、日本には、いまだに多くの神仏習合の形で拝み見ることができます。

単に、日本の為というだけではなく、世界のためにも、神仏習合の形を将来にわたって大事にしていってほしいと強く願っております。

真言宗 醍醐派 太江寺→https://taikouji.com

太江寺の見どころのひとつ、藤棚

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