仏教概論

一、はじめに

現在はまだコロナ禍にあります。この未曾有のウイルスは、変異体を含めて、社会行動を軒並み変化させました。また、大国が自国の覇権を広げるべく行ったウクライナ戦争は長期化し、犠牲ばかりが膨らんでしまっております。この戦争は単に遠い世界のことではなく、第2次大戦以降の世界の地図を塗り替えるような大事件であります。このような中で、二千五百年ほど前のお釈迦様の言葉、態度は現在のわれわれに、どのような意味を持つか、いま一度考えてみたいと思います。

お釈迦様の言葉は、その時代、地域によって解釈がさまざまに異なります。そのバリエーションの多さを見たときに、仏教は他の宗教を圧倒し、インド文化圏から中国文化圏、さらに多くの文化圏に伝搬した歴史を含むものです。お釈迦様のメッセージはさまざまな文献で繰り返されておりますが、その最初期のものを学ぶことによって、その表している物事を、知識としてではなく、自分自身の心から感じるものとして捉えてみたいと思います。過去を学ぶことは、まさに現代を学ぶことです。

本講義では仏教のバリエーションを概観したうえで、最初に人として守るものとしての「五戒」を取り上げます。そして、正しいこと、無慙と無愧（大不善地法）を解釈します。説法のすべてということで初転法輪を取り上げ、実践的態度としての無我と十難無記。これら5つのテーマを取り上げ、塾生のみなさんとともに、深く考えていきたいと思います。

二、仏教の伝搬

まず、地図からですが、ゴータマ・シッダールタが悟りを開いたところがブッダガヤです。そして仏教は、最初期から紀元前三世紀にセイロンに渡って、五世紀になって、パガン王朝のビルマ（ミャンマー）に入ってくるわけです。そして十三世紀から十四世紀に、アンコール朝カンボジアやシャム（タイ）などに渡りました。

一方、紀元前3世紀に、西域に大乗仏教が伝わりましたが、まずはガンダーラそれからバーミヤン、サマルカンドなどへ伝播しました。資料に載せましたラホールの苦行像などが代表的ですが、最初期の大乗仏教はガンダーラ地域が中心となります。

そして、紀元前1世紀から1世紀ぐらいに、クチャとかトルファン、敦煌、長安に伝わっていきます。日本に伝わるのが六世紀です。インドにはイスラムの侵入がありました。そのため仏教はヒマラヤを越えてチベットに伝わり、モンゴルに伝播してモンゴル仏教となっています。このように南方の上座部系の仏教、漢訳経典を中心とする大乗仏教、チベット仏教の３つが大きな流れとしてあります。しかしながら、日本には第２次世界大戦後までモンゴルの仏教は入ってきておりません。なぜならば、日本は、ちょうど鎌倉時代、蒙古と戦争状態でした。そして、近代になると、日本はアジアの近隣諸国に対して、卑下するような態度をとっていたからです。ここで一つ注意が必要です。従来の参考書には、お釈迦様の仏教→部派仏教→大乗仏教→チベット仏教の順番で登場しますが、実際はタイに仏教が伝わり現存の形になるのは十三世紀から十四世紀の鎌倉時代になってからで、日本に大乗仏教が伝わったのは、インドでは後期仏教、チベットの建国と同時期になります。

※上記は東京国際仏教塾第36期スクーリングにおいての佐野靖夫先生の講義の冒頭部分です。
※詳しい内容、続きを読みたい方は、冊子「佛教文化」第216号をご覧ください。
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