禅和尚のぶつぶつ⑬ 柔軟心

「柔軟心」とは、中国に渡った道元禅師に如浄禅師から示された言葉です。物事にとらわれない柔軟な心によって、正論か否かに左右されずに広い視点で物事を捉えられようになります。

まだ飛行機が「当たり前」の交通機関になる前の話です。

国内線のチェックイン・カウンターでの出来事でした。

カウンターに高校生になりたてのような男の子(?)がやってきました。夏休みになったので、東京から故郷に帰るというのです。「航空券は?」と尋ねると要領を得ない。空港へさえ来たら、親が購入した航空券を受け取れると思い込んでいるようでした。

航空会社は航空券の預かりはしません。ただし、空席はあるので、航空券を買えばすぐ乗れると説明しました。しかし彼は、下宿は遠く、「電車賃だけ持って空港まで来た」。飛行機代はおろか、空港近くのホテルへ泊まることも帰ることもできない。
彼の説明は要領を得ないので、事務所に案内して家族と電話で話してもらいました。
電話のやり取りの様子で、高校生が航空券の買い方まで判らないだろうと、親御さんが航空券を買い、それを下宿に郵送する手はずだったとわかりました。
一方の息子さんは、一日も早く故郷に帰りたい気持ちによる勘違いで、取りあえず空港へと向かったという流れだったようです。電話を替わると親御さんは平謝り。「どうしたらいいでしょうか」と、泣きつかれてしまいました。
我々も係り合った以上、引けぬ状況になり、対応策を皆で検討しました。
航空券がなければ乗れない基本通りの扱いという正当な意見の中、航空券はどこで買っても有効で、要は「その送り方の問題を考えればといいのでは?」とアイデアが出ました。

親御さんの住まいを伺うと、空港まで1時間位で到着出来る場所。「空港に連絡しておきますので、空港で航空券を買って職員に預けてください。その連絡があったら、次の便に搭乗頂きます」と案内しました。

その後、空港から航空券が購入されたとの連絡があり、件の息子さんは早速、次便に搭乗でき、無事、故郷に帰られました。なお、航空券は東京行の飛行機にて我々の手元に届き、事後処理の形で本社にレポートされました。

現在は電子機器の発達で通信手段や決済手段が即時的になり、こんな手間は必要ありません。しかし、当時の状況下では難しいこと。ただ、あのアイデアは、目の前にいる、困ったお客様を見捨てず、早く故郷に帰してあげたいスタッフの優しい心が起した「柔軟心」。
ルールの行間を読んで搭乗するという目的のためにアイデアを絞った仲間たちを誇りに、そして懐かしく思い出します。 

太田宗誠 合掌

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