禅和尚のぶつぶつ⑭ 成長
ワシントンの空港で勤務していた時の話です。
ある日、部下の生粋の米国人女性スタッフが、話があるといってきたのです。彼女は「米国のオフィスでは、上司が皆を元気づけようと明るく接してくれるが、日本の上司は、なぜ、いつも文句を言ってばかりで、皆のやる気を削ぐのか?」という抗議のような疑問でした。
困りました。
彼女の主張は私にとっても理想であり、自省の念を呼び起こされます。そこで、私は「米国の上司の行為は正しいと思います。でも、その上司はニコニコ笑いながら、FIRE(クビ)といいますよね。日本では、余程のことがない限り、クビにはしません。なぜでしょうか?」
今度は、彼女が困った顔をしています。
「あくまでも私見ですが、その米国の上司は、社員を簡単に取り換え可能な部品のように扱っているのではないですか。しかし、日本の場合は、自分の代わりになるように育てる姿勢を大切にしています。その結果、信頼が生まれ、安心して、その場を離れられ、次の仕事に取り組むことができると考えているのです」
どこまで伝わったかは疑問ですが、彼女は「考えてみる」と引き下がってくれました。
ワシントンの路線は採算が取れないため、残念ながら5年で閉鎖になりました。
各スタッフの行く先を探し、私も帰任することになり、サヨナラパーティーを催しました。彼女も参加してくれ、小さなプレゼントをくれたのです。開けてみたら、記念品と一緒に同封された手紙に「私をGROW UP(育てよう)と努力してくれて、ありがとう」と書かれていました。
日本でも昔ながらの終身雇用という発想が希薄になり、取り換え可能なパーツとして社員を捉える会社が増えてきています。たしかに、現場での即戦力はありがたい。しかし、社会人になったばかりの人、または、新しい職場に代わったばかりの時、いきなり、使える人になれるものでもありません。時代遅れの感はぬぐえないかもしれませんが、「人は人が育てる」、この努力なくしては、人は成長しないように思います。また、叱られたからといって横を向いてしまっては、成長も出来ません。「人は人によって育てられる」ものであり、そこに信頼関係が生まれます。
私のたどたどしい英語力の禅問答のような会話。それから逃げることなく、受け止めてくれた彼女。これがあって、お互いを認め合う関係が構築できたと信じています。30年以上も前のことながら、まざまざと心に残っています。
太田宗誠 合掌

#東京国際仏教塾 #仏教を学ぶ #仏教を知る #宗派を越えて #臨済宗 #大人の学び直し #リスキリング


