「無有代者』代わる者はいない①

本日から毎週金曜日、3回連載で『無有代者』についてのエッセイをお届けします。

コロナ禍が続いています。対策の決め手がワクチン接種ですが、そのワクチンにも新たな問題も出てきています。順番を代わろうと思っても、個人ごとに券番号が振られているので代わることは出来ません。またコロナで苦しむ大事な人を見て代わりたいと思っても代わることは出来ません。今日は人は入れ代わることが出来るのか、代わったらどうなるのか…、仏様にお願いして代わってもらえるのか…いろいろを考えてみました。

【身代わりのご本尊】

まず、身代わりで思いつく話をします。私の出身地は信州の長野市ですが、名所は善光寺。親鸞聖人百か日参篭で知られています。昔から「一生に一度は善光寺参り」と言われていますが、今年は7年ごとに一度開かれる御開帳の年でした。昨年は延期となり寂しい限りでしたが、今年は期間をずらして、4月3日(日)から6月29日(水)へと、延長して開催に変更。この間、遷座式、開闢大法要、中日庭儀大法要を経て、結願大法要と続きます。

御開帳というのは秘仏のご本尊を公開するということですが、善光寺のご本尊・善光寺如来像(一光三尊阿弥陀如来)は住職でさえも見たことがないという絶対秘仏で、御開帳で公開されるのは前立本尊という身代わりご本尊です。善光寺参りをされた方は、真っ暗闇の内陣の下を手探りで歩いて、錠前に触れるという「戒壇めぐり」をされたことがあると思いますが、その錠前の奥に鎮座するのが秘仏のご本尊です。身代わりでもありがたい、と皆さんお参りされています。

国宝の本堂に入ると正面に「おびんずるさん」という木像が鎮座しています。正式には「寶頭盧尊者」。お釈迦様のお弟子の十六羅漢の一人で、病気を治す神通力第一と言われるお方です。それで身体の具合の悪いところを撫でると病気が治るというので、「撫で仏」と親しまれています。皆が触るので目も鼻も分からないほどつるつるにすり減っています。自分の悪いところを撫でて、その手でおびんずるさんの同じ場所を撫でる(逆もあり)と治るというので皆が触るので、直るどころか病気がかえって広がったこともあって、お正月に本堂を引き回す「おびんずる廻し」の行事では、素手ではなくオシャモジで撫でて無病息災を願っています。これは「身代わり」というより「肩代わり」ですね。

-つづく(次週5月13日へ)-