慈しみながら、しなやかに

作品名:電光無量無辺香合 サイズ:W56xD56xH14mm 制作年:2021年

約5年前、螺鈿(らでん)の世界に衝撃を与えた若きアーティストに出合いました。
池田晃将(てるまさ)氏です。彼の作品をはじめて拝見した時は、世の方々同様に驚愕、「すごい!」の言葉しか出てきませんでした。
その作品は、映画や漫画の1シーン、デジタルの世界さながらに、黒漆にレーザーカッターで切り出した0〜9までの数字がびっしりと、しかも手作業で埋め込まれていたのです。素材は、古から螺鈿で使われる夜光貝などの厚さ0.1ミリにも満たない薄い真珠層。同じ素材を使っていても、発想次第で全く違う見方、表現ができることがはっきりと伝わってきました。
池田氏は、螺鈿そのものへの思い込みを見事に払拭してくれたのです。

価値観は日々、変化していきます。固定されたものに縛られる必要はありません。
お釈迦様は「思い込みから脱しなさい」と説いてくださいました。事柄には、ひとつとして同じこと、同じ意味はありません。同じ場所に留まることもないのですから。

禅門のシンボリックな「一円相」の解釈もしかり。連綿と同じ解釈をしては、心は不自由。
形骸化することなく、今をとらえ、生きた円として受け取る心が大切とされます。

今年は、まだまだ張りつめた空気が残る1年でした。とはいえ、振り返ってみると一昨年とは違った景色だったはずです。
数日後には新しい1年が始まります。その一瞬一瞬を慈しみながら、心しなやかに過ごしていただきたいと思います。

年末の挨拶にかえて。

東京国際仏教塾事務局

池田晃将 Profile 1987年千葉県生まれ。金沢美術工芸大学、大学院修了。金沢卯辰山工芸工房修了。現在は、金沢市内で自身の工房を率いる。作品は国立工芸館、インディアナポリス美術館など国内外多数の美術館が収蔵。

画像提供-池田晃将

作品名:百千開闢角棗 サイズ:W51.5x D51.5x H86mm 制作年:2023年 Photo by Akifumi Nakagawa

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