『歎異抄』の世界(第31期スクーリング特別講義)

『歎異抄』。これは親鸞聖人のお言葉を、唯円というお弟子さんが生涯の間にお聞きになった要旨を記された書物です。明治以前は、「外見あるべからず」と、外部者に対して見せてはいけない秘密の書。浄土真宗の聖典ではありますが、外部には出ていませんでした。
明治以降になり、やっと一般の人でも読めるようになったのです。同時に貴重な書物だということで日本中に評判になり、特に、多くの思想家や著名人にも感銘を与えていったのです。
たとえば司馬遼太郎さん。第二次世界大戦で兵役に召集された時に、偶然本屋で見かけた『歎異抄』を入手しました。「死んだらどうなるか」と考えていた彼に「親鸞聖人に騙されてもいいやという気になり、兵隊になってからも肌身離さず、暇さえあれば読んでいました。だから、無人島に一冊だけ本を持っていってもいいと言われたら、『歎異抄』しかない」とおっしゃっています。
西田哲学の祖、西田幾多郎先生は「一切の書物を消失しても『歎異抄』があれば我慢できる」と。西田哲学の流れを組む三木清先生は「万巻の書の中から1冊選ぶとしたら、『歎異抄』を取る」。昭和初期に活躍した劇作家、評論家の倉田百三さんは「『歎異抄』よりも求心的な書物はおそらく世界にない」といわしめました。そして、最後にご紹介したいのは、ドイツの哲学者であり、二十世紀の哲学者の筆頭に位置するマルティン・ハイデガーという方です。彼の日記には「英訳を通じてはじめて東洋の聖者・親鸞の『歎異抄』を読んだ。もし十年前にこんな素晴らしい聖者が東洋にあったことを知っていたら、日本語を学び、聖者の話を聞いて、世界中に広めることを生きがいにしたであろう。遅かった。」と書いています。
このように内外の識者たちが絶賛しているのが『歎異抄』という書物です。

※※上記は第31期のスクーリングの講義内容の冒頭を紹介したものです。