仏教概論(第31期スクーリング講義)

仏教概論ですから、仏教の最も古い時代のお釈迦さまの思想の基本的なこと、それだけではなくて、今この世界で、私たちの身の回りで起こっていることについても繋がらないと、単なる学問の領域だけで満足している、それではまるで意味がないのではないかと考えます。これからお話しすることは、お釈迦さまが直接説かれたとされる言葉が基本です。

皆さんが身近で、あるいは私が現在お寺で行っている仏教というのは、もちろん日本仏教です。日本仏教というのは大乗仏教という、これは特に中国伝来以降、おそらく西暦紀元前後以降に培われたものです。ところが今日のお話、私の専門はインドの最初期の仏教です。お釈迦さま、すなわち歴史上のゴータマ・シッダールタという人物の、実際に言葉でつづられたとされていることについてであります。

仏教が日本に最初に伝来したのは、聖徳太子の古い時代ですが、仏教学というものが明治以降に日本に入った時点で、お釈迦さまの言葉だとされている文献自体も後世のものではないかという知見がある分野です。

それでも世界で現在行われている一番古い仏教といわれているものは、タイであるとか、ミャンマーであるとか、東南アジアのほうに伝わっているもの、あるいはスリランカに伝わっているものが、一番古い形態を残しているといわれています。

タイとか、ミャンマー、それからスリランカにある仏教というのは、形態は古いものを引きづってますが、現実には非常に新しい仏教、大乗仏教よりも新しいのではないかと、現在考えられている仏教です。そこのところを間違えてしまうと、とても大きな誤解となります。実はそういう仏教というのは本当に新しい、日本でいえば鎌倉時代以降の仏教と同じくらいにつくられてきたのが、タイとか、ミャンマー、あるいはスリランカに伝わる古い形の信仰の形態を独自に発達させたものを現代に伝えているということであります。
本当に古い仏教というのは、実は現在インドでは歴史的には滅んでしまったとされています。

特に北回りで、いわゆるインドから中国に入る中央アジアの伝播ルートというのは、後にチンギス・ハーンをはじめとする人々、あるいはそれ以前にはイスラームの人々によって破壊された場所です。昨年、トルクメニスタンのメルブという仏教遺跡、世界で一番西の外れの仏教遺跡という、シルクロードの西方、ほとんどイランのテヘランに近い場所なのですけれども、そこはもう現在では砂漠の遺跡で当時の形はなくなっている。北回りの仏教というのも中国を始め現実には存在していない。あるいは現在あるインドの仏教というのは、二十世紀、第二次世界大戦後につくられた仏教ということですので、本当に古いものというのは、遺跡のみで歴史のかなたになくなってしまっている、あるいは伝わってきて、別の形となって変容しているというのが事実であります。

※上記は第31期のスクーリングの講義の一部を抜粋したものです。
※詳しい内容を知りたい方は、冊子「佛教文化」195号をご覧ください。