カースト制と仏教
インドには、古代よりカースト制(ヴァルナ・ジャーティ制)と呼ばれる身分制度があり、今でも根強く残っています。
カースト制は、紀元前13世紀頃にインドに侵入したアーリア人が、先住民を隷属民(シュードラ)として最下層に位置づけるとともに、自らの宗教であるバラモン教の司祭(バラモン)をヒエラルキーの頂点において、その下に王族・武士階級(クシャトリア)、商人階級(ヴァイシャ)を配置し、大きく4つの身分(ヴァルナ)に分けたことに由来します。ヴァルナは、さらに何百もの職業集団(ジャーティ)に細分化されていき、異なる階級間での婚姻が禁止されるなど複雑な身分制度を構成しています。
カースト制では、「我(アートマン)」という実体が永遠に存在し続け、輪廻転生するという宗教観をもとに、現世の階級は前世での行い(業)によって定められており、親から受け継がれた身分は決して変えることはできないとされています。
お釈迦様は、永遠に存在する実体はないという「諸法無我」を説かれ、「我」という不滅の存在が過去や未来の行い(業)を背負い、流転輪廻し続けていくと考えることは苦しみであるとして、そのような苦からの解放(解脱)を説かれました。
そして、生まれによって階級が決まるという考え方を否定して、
「生まれによって卑しい人となるのではない。生まれによってバラモンとなるのではない。行為によって卑しい人ともなり、行為によってバラモンともなるのである」
という言葉を残されました。
仏教は、悪いことをすると地獄に落ちるといった輪廻思想を説いていると思われていますが、本来はその流転の苦しみから解放される道を説いています。
お釈迦様は、縁起(因果律)では説明できない前世での行いによって現世での身分が決まるという、人々を苦しみに縛り付ける非合理な考え方を否定して、仏の悟りの世界から見ると人間の作り出した差別などは実在せず、一切の生きとし生けるものは平等であるということを示してくれました。近代的な人権という考え方が生まれる遙か以前に、真理を見つめることを通して、固定された身分制度を否定し、一切の生きとし生けるものは平等であることを見いだされたのです。
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