無常の中の命
釈尊は、この世のすべてのものは、移ろいゆくものであり、留まることがないということを、「諸行無常」とご覧になりました。
「諸行無常」を、すべてのものが滅びゆくという側面から見ると、「エントロピー増大の法則*」と言われている物理法則を正確に表しているとも考えられます。
*自然現象は、外部から何かの力が働かない限り、必ず秩序のある状態(例えば、形のある状態)から無秩序(例えば、形がなく均一な状態)に向かい、元に戻ることはないという法則。
しかし、実際には、地球上には次々と生命が生まれ、山や川も、消えてゆくものもあれば新たに造られるものもあります。そのままでは無秩序に陥っていくはずの自然に、何らかの力が働いて次々と秩序が生まれてくるのです。
生物の体も、ずっと同じ状態を保っているように見えますが、実は我々は、自分の体の細胞を次々と壊しては、新しい細胞と入れ替えています。三か月もすれば、体中の細胞のほぼすべてが入れ替わると言われています。そして、自分自身は同じように存在し続けているように見えます。
「諸行無常」は、滅びゆくだけでなく、新たな命や形を生み出していくという側面も持っているのです。
そのままでは壊れていくだけものが、大きなエネルギーの循環を利用して、「エントロピー増大の法則」に逆らいながら、生命が生まれ、死んでいく。そして生命は、個体の生死を超えて繋がっていく。考えてみれば、これほど不思議なことはありません。この「無常の中の命」に働いている力の不思議を感じることが、仏教を学ぶことの意味の一つであるといえるのではないでしょうか。